文庫の効用。

熊の敷石 (講談社文庫)

熊の敷石 (講談社文庫)

日本人が日本語で他国の歴史をなぞることが可能であったのか、というささやかな驚きがまず先にたった一冊。大切な一冊になりそうだったから、文庫になるのを待っていた。
フランスでユダヤ人の歴史の一端に触れる。別に大それたことではない。日本でだって、ほかの国の小さな曲がり角のような一瞬に思いをはせることはできる。それがどれだけ自分にリアルに迫ってくるのか、どれだけ自分の思いがそこまで届くのかという違いしかない。
ただ自分が外国にいるときにより敏感になるのは、そのときその場所で自分が外国人であるからに他ならない。
この本を初めて読んだときの、自分の中の小さな振動がしかし今消えてしまいそうで怖い。小説の出来ではない。自分自身の問題だ。いま、私は急速に年をとっている。たくさんのものから興味がなくなっているのを自覚しながら、止めることができないでいる。
しかしフランス語への情熱は最近復活してきたところ。バランスが悪いまま、前に走り出してはいる。