久しぶりに映画など。

赤ちゃんの逆襲 [DVD]

赤ちゃんの逆襲 [DVD]

事故死した男シモンが、恨みをもつある会社社長ヴァンサンの生まれたばかりの赤ん坊に何故か生まれ変わり復讐をしようとする一見ファンタジーの顔をしたブラックユーモア作品。
復讐の仕方は数あれど、赤ん坊になってしまったシモンの選んだ手段は「自殺」。なぜなら自分が死んだら、父ヴァンサンはたいそう悲しむであろうから。必死であの手この手を使って死のうとする姿が、シモンの元々の境遇と相まって、けなげでしかもいじらしく見える不思議な逆転現象を起こして胸がチクリとした。
ポレルの側近の女性ベアとリスの息子は会社に建築家として雇われているが、母の見込みとは裏腹に実際には能力がない。彼の設計した建築物は全て誰かからの盗作である。息子は自分の才能の限界に気づいているが、母親がそれを認めない場面も強烈に印象に残った。シモンの恨みの原因も、結局は彼の盗作が発端なのだが、最終的に息子がクスリに手を出すほどに追い詰められる、親の愛情の脅迫。「愛してる」はときに暴力的だ。
ヴァンサンの息子への愛もまた、シモンにはなかなか届かない。息子の自分への冷淡ぶり(赤ん坊であるのに!)、家政婦とのやり取りや嫁姑の争いに心底参ってしまったヴァンサンが、シモンの彼女に慰謝料を払う場面、あまりの大金を差し出したことに驚く側近を横目に「誰かに感謝されたかった」という彼の言葉が響いた。そしてその大金を受け取った彼女は今の男との別れて自立することを決める。

B級映画とあなどるなかれ。みんながそれぞれの立場で七転八倒している。

ヴァンサン役には「奇人たちの晩餐会」に出ていたティエリー・レルミット、シモンの彼女役には「トーク・トゥ・ハー」のレオノール・ワトリング。キャストも収穫であった。