探しのものは何ですか。

夢の中へ [DVD]

夢の中へ [DVD]

昨年の作品。テアトル新宿でのレイトショー、観にいこう観にいこうと思ってたのに結局行けなかった。

作品の冒頭と最後、色彩が浅くなってピアノ音が流れている中で子供時代をフラッシュバックしていた。こーゆーのにいつも感情的に流されてしまう自分はフラッシュバックに強い憧れを抱きながらも、同時に「お願いだから過去を思い出させないで」とも激しく思う。特に何か過去にあったわけではない。
「思い出が増えていくことは悲しい。」と作家の藤野千夜がどこかで言っていた。自分も今、そう思う。この主人公だって過去ばかりが増えていく。別に昔を振り返るストーリー展開ではないけれど、こいつも今に惑ってるんだな、とそう感じただけ。



何者でもない (講談社文庫)

何者でもない (講談社文庫)

「夢の中へ」を観てこの作品を思い出した。ある劇団で役者をしている、哀しいけれど優しい男の話。
これを読んだのは高校生の頃だったかな。作品が書かれたのは昭和と平成の境目の頃だから、劇団員の部屋は畳という妙な思い込みがあった。けれど映画の中での彼らのアパートは、白い壁にフローリング。大して自分のところと変わらない。そりゃそうだ。映画の主人公が歩いている風景のなかには清潔なビル群と、現代的なマンションが立ち並んでいて、ここでもまた自分の思い込みの修正が必要だった。平成が始まって18年目ということの驚き。
小説の中では主人公が付き合っている女の子に、お金を半分だしてやかんを買ってあげるエピソードがあって、私はそこにどうしようもなく胸がしめつけられたのだったっけ。

劇団という独特の宇宙空間をこの作品で知った。そして、その宇宙を今日はまた映画の中で少し覗いた気がする。この二つの作品の主人公はしかし、時代は違えどとても似ていると思った。探しているものが何かもわからない。そして、それは自分にだって言えることだ。