漂流の思い、いまだ止まず。

島とクジラと女をめぐる断片

島とクジラと女をめぐる断片

ポルトガルのアソーレス諸島周辺、そして鯨。これらの単純な風景が断片として描かれる。一文一文が濃密で、吸い込まれそうになる。小説を読む醍醐味は、作家によって選択され記された言葉の魅力、編まれた文の清潔さにあると思う。清潔さとは、内容の問題じゃない。
ある意味、土地の持つ記憶に連ねて束ねられた短編集とも言える。現在は経済的な理由から諸島のいくつかの島は無人で、全体として過疎が進んでいるのだという。鯨の静かな孤独と、この島々の持つ哀しみがリンクしている気がして気が遠くなる。

書中の「沖合い」のなかで引用されているミシュレの文。

まるでノートルダム大聖堂の一対の塔のように、恋するものたちは、腕があまりに短いことに泣き声をあげながら、抱き合おうとしてもだえる。

海

ため息が出る。ミシュレも読まなくては。