90年代の記憶と供に。

ぐるりのこと。 [DVD]

ぐるりのこと。 [DVD]

「ハッシュ」から6年後の作品。もう6年(実際は8年)たった、という静かな驚き。
哀しさを共有する、ということは例え相手が一番身近な人であっても、実はとても難しいことだ。誰かがそばにいても、わかりあえなければ孤独は一人よりも深まる。
妻の異変に気づいているけれど、核心に触れない夫の態度はわかる気がする。言葉で哀しみを表現しても白々しい。自分が納得する方法をとっても、相手の哀しさは癒されない。それを夫が直感的に知っているからこそ、距離があく。
二人が好転していく過程がよい。次第に妻の顔に色味が戻っていく。

140分という尺が長く感じられて、実は敬遠していたのだ。しかし、こんなにかぶりついて観た映画は久しぶりかもしれない。長さをほとんど感じない。気持ちがずっと、映画から離れなかった。
90年代から2000年にかけて日本社会で起きた事件が公判シーンとして挟まれるのだが、あれだけ世間を騒がせたのにそれらの事件をすっかり忘れていることに気づく。自分が不意をつかれたのはお受験殺人事件の記憶。あの事件のその後を私は知らないが、今思い出しても苦しい事件だった。